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2020年8月17日

ICTで学びを保障する合理的配慮シリーズ『オンライン教育がもたらすインクルーシブ教育の新しい可能性』

『オンライン教育がもたらすインクルーシブ教育の新しい可能性』
鈴木秀樹(東京学芸大学付属小金井小学校)

コロナウィルス禍で、全国で休校や分散登校、時差登校が行われていることと思います。本校も同様で、3月~5月はまるまる休校、6月から分散時差登校を開始し、6月中旬からは一斉時差登校としましたが、感染者の増大を受けて7月からは再び分散時差登校となって一学期を終えるまでその状態が続きました。この間、オンライン教育を様々な形で進めてきましたが、これがインクルーシブ教育の観点から見ると様々な発見をもたらすものでした。いくつか事例を紹介していきたいと思います。

まず、本校の状況をもう少し詳しくお知らせさせてください。
3月の休校の時は、児童の学習に対して何の手当もできなかったのですが、「これではまずい」という思いから準備をして、4月からMicrosoft A1アカウントを全児童・教職員に発行し、家庭のデバイスを活用してTeamsを軸とした学習支援を始めました。ご家庭によってアクセス環境は様々でしたので、同期型の授業に対しては抑制的な姿勢を保ち、非同期型で一人一人の児童に寄り添いながら学習支援を進めていきました。(この辺りの経緯についてはEmpowered Japanでさせていただいた講演のアーカイブがありますので、そちらをご覧ください。)

4~5月の休校期間は、児童に何の説明をすることもないままTeamsによる学習指導を始めてしまいましたので、教える方も教わる方も手探りの状態でしたが、6月からは子供たちを教室で指導することができましたので、そこで改めてTeamsの使い方、オンライン授業の受け方などを教えました。また、休校期間中からご家庭のインターネット環境を調査し、必要であれば学校のタブレットを貸し出す等の支援策を取りましたので、7月に再び分散登校となった時にはクラスの状況に応じて同期型の授業も始めました。

4~5月の非同期型の学習支援を行いながら考えたのは、「我々は教育観の転換を迫られている」ということでした。

これまで、学校で大切にしてきたのは「Face to Faceの教育」だったのだろうと思います。教室で、教師と児童・生徒が向かい合い、教師が問いかけ児童・生徒が答えるなどして成り立つ教育です。本校は教科教育研究が盛んですが、そのどれもがこの「Face to Faceの教育」に基づくものであったと考えていいでしょう。教師と児童・生徒が向き合うだけでなく、児童・生徒同士が様々に向き合って意見を交流させながら学習を進めていく姿がどの授業でも見られていました。

しかし、子供たちが学校に来られなくなったことで、この「Face to Faceの教育」はできなくなりました。我々に与えられたツールは非同期でしか繋がれないTeamsのみ。これで十分な指導ができるだろうか、と当初は心配されましたが、実はこれが今までにはなかった学びを生み出しました。

非同期型の指導では、教師が課題を提示した後、どのタイミングでそれに取り組むか、どのタイミングで返信するかは、学習者の側に委ねられます。同時に返ってくることはありません。必ずバラバラに返ってきます。するとTeams上では、教師と児童のやり取りが活発に行われるようになりました。

「先生、インゲン豆の課題で質問です。4月の終わりまでに5個の種のうち3個が発芽しました。その後土に、うえかえたけれど成長しません。今は、もう枯れています。あと種がくさっているのもあります。どうしたらよいですか?」
「枯れてしまったものは捨ててください。成長しなかった理由を考えてみましょう。君の考えをノートにまとめておけばOKです。」

なんだ普通のやりとりじゃないか、と思われるかもしれませんが、こうしたやりとりがあちこちで交わされるのです。これは通常の学校生活ではなかなか難しいでしょう。同時ではない非同期の取り組みだからこそできることです。更に書くと、実は上記のやり取りは担任と児童のものではありません。理科を担当している「隣のクラスの担任」とのやり取りなのです。こうしたやり取りが生まれるのも非同期ならではでしょう。

こうした経験から、我々は「Face to Faceの教育」を行う教師から「学びのSide by Side」に寄り添おうとする教師へと発想の転換を迫られているのだな、と感じています。この「「学びのSide by Side」に寄り添おう」という発想は、まさしくインクルーシブ教育につながるものと言えるでしょう。

7月に再び分散登校となった時、私のクラスでは登校しない日に同期型のオンライン授業を行うことにしました。6月にオンライン授業への参加の仕方も教えましたし、接続確認もできていましたので、これならできるだろうと判断したわけです。
この同期型の授業を1か月行った後、学期の終わりにアンケートを取ったのですが、これはなかなか興味深いものがありました。同期型のオンライン授業には学びに困難を抱える児童の助けになる要素があるようです。

まず、「授業中、手をあげて発言するのが苦手」「みんなの前で発表するのが苦手」という子にとって、オンライン授業は非常に良さそうです。いくつか児童の声をひろってみましょう。

「オンラインは意見をはっきり言う気になれるからいい」「教室だと自分はあまり発言しないけれどオンラインだと発言しやすくなっているのが好きです。」「教室だと緊張して発言出来ないけどオンラインだと緊張がなくなってすこし発言しやすくなるところがすき」
これらの声は、教室での授業をどう改善しようとなかなか出てくるものではないでしょう。ですが、オンライン授業の「繋がってはいるけれど、今、周りに友達がいるわけではない」という環境は、発表が苦手な児童の心理的負担を軽くする効果があるようです。

また、通常の授業では話の展開についていけなくて苦労する、という児童にとってもオンライン授業はわかりやすいようです。教室での授業では、誰かが発言したら、それにかぶせるように複数の児童が声をあげて話が発展していくことがあります。傍目には活発で活気のあるよい授業に見えるかもしれませんが、話の文脈をとらえるのが苦手な児童にとって、そうした活発な授業は話の順番が明確でない、非常に話を追いにくいものであったりします。

ところがオンライン授業では、発言するのは一回に必ず一人です。参加している児童は、教師が「〇〇さん、どうぞ」と言った時にしかマイクをオンにしないので、順番がかき乱されるということはありません。興味深いことに、アンケートではこうしたことに対する歓迎の声は聞こえてこないのですが、授業の課題への回答を見ると明らかに結果が違っています。文脈の取り違えがなく、正しく内容を理解して課題に取り組めているのです。

コロナウィルス禍が学校にもたらしたのは非常に厄介なことではありましたが、そこにICTというツールを手にして立ち向かうことで、新しい発見を多々得ることができました。「Face to Faceの教育」から「学びのSide by Sideへ」と発想を転換させながら、インクルーシブ教育を進めていくことが我々の現在の目標になっています。

《執筆者プロフィール》
慶應義塾大学大学院修士課程終了後、私立小教諭を経て2016年より現職。
2019年からは東京学芸大学非常勤講師を兼務。校内での役職は「情報部長」という名の雑用係。
学校外ではマイクロソフト認定教育イノベーターとして活動。
2019年春にはパリで開催されたマイクロソフトEducation Exchangeに参加。
LINEスタンプクリエーターの顔も持つが、総売上高は5,315円。 「ICTを活用したインクルーシブ教育の実現」をライフワークと考えている。

イラスト提供:Atelier Funipo

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