2020年10月14日
『Monoxer』でコロナによる喪失時間を挽回し記憶定着指導を実践/KECグループ
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“失われた420時間”をICTで取り戻せ
「子どもたちの“失われた420時間”を取り戻したいんです」。
そう唇を噛むのは、学習塾・KECグループ(奈良県)の川畑賢嗣ブロック長。420時間とは、コロナ禍により学校・家庭・塾などで子どもたちが学習するはず「だった」時間の概算合計のことだ。「弊社は、ICTを用いてこの喪失時間の挽回にチャレンジします」。
川畑氏が「チャレンジ」という言葉を使ったのには、同社らしさがよく表れている。KECグループは、奈良県下最大規模の学習塾でありながら、良い意味で「塾らしくない塾」だ。「教育×エンターテイメント=エデュテイメント」を掲げ、生徒はもちろん、社員自身がここで働くことをエンターテイメントとして楽しもうとする社風。「ライバルはテーマパーク」と公言する。そのせいだろうか、川畑氏の言葉に危機感はあっても悲壮感はない。むしろ「新しいことができる!」というポジティブ感情がにじみ出している。
そんな同社が「チャレンジ」の一環として導入したのが、記憶(暗記)定着支援プラットフォーム『Monoxer』(モノグサ株式会社)だった。
子どもたちの記憶力低下への危機感
Monoxerは、「記憶すること」に特化した学習支援ツールで、覚えさせたい学習内容を入力するだけで自動的に問題が生成される。学習者は、スマホ等にダウンロードしたアプリで問題を解く仕組みだ。特長は、AIが生徒の習熟度や忘却度に関するデータを蓄積・学習して、一人ひとりに最適化した難易度の問題を自動で出題してくれること。この自動難易度変化により既存の憶える方法よりも効果的・効率的な記憶定着を実現することができる。出題形式も選択式から穴埋め式、記述式、音声入力式、画像問題まで、さまざまに対応している。また、生徒の学習履歴や進捗、正誤状況のみでなく、「定着度」までがすべてグラフなどで可視化されるため、指導者が学習計画を立てやすい点も強みだ。
知識や技能を「どう使うか」を重視するようになった我が国の教育だが、そもそも「使う」ためには知識が定着しなければ始まらない。定着するとはすなわち記憶(暗記)することだが、これには物理的な時間も必要だ。川畑氏らは、それを“失われた420時間”の一部としてMonoxerで効率化し、取り戻そうとしたのである。
また、川畑氏は「個人的な意見」と前置きしつつ、生徒たちの暗記力低下を強く危惧する。「10年くらい前からでしょうか。『(生徒が)覚え方が分からない』という傾向の高まりを感じていました。それは生徒のせいではありませんが、戸惑いを感じていたのは事実です」。
一方で、教育者は自らの成功体験にのみ基づき、それを生徒に当てはめようとする過ちを犯すことがある。自分がそうだったからと言って、生徒が同じようにできるとは限らないのだ。川畑氏もそこは気を付けていた。「以前は、書いて覚える、音読して覚えるなど、いろんな方法を教えてもいました。しかし、何がその生徒に合っているかは分からないですからね」。
そこに腐心している間にも“失われた420時間”は刻々と取り戻せなくなっていく。生徒を想い、学びを個別最適化しようとすればするほど、同時に貴重な時間を奪ってしまう皮肉な話だ。できるだけ効率化する必要があった。
「覚えたつもり」で疲弊を重ねる子どもたち
生徒の「覚えたつもりだった」という言葉も何度も耳にした。「覚えても短期記憶に留まり、忘れてしまうんです」と川畑氏。これもまた、再び覚えるという非効率的な学習サイクルを生み出す。しかも生徒からすれば「覚えたつもり」なのだから、それで結果が伴わないとなれば自己肯定感は下がる一方だ。学習意欲もそがれるだろう。
これには、「本当に覚えたか」を生徒自身も指導者も正しく把握する必要があるのだが、ここにもMonoxerが一役買っている。AIによる出題内容・出題方式の最適化や、グラフ表示による記憶内容の可視化機能などで、一気に効率的になったからだ。なによりもこれまで可視化が困難であった「記憶度(≒定着度)」を客観的な指標として把握することができる点は大きな変化だった。例えば四択なら正答できるのに、記述になると間違えてしまう――これは記憶が知識として正しく定着していない証だが、MonoxerはAIで出題内容・出題方式を最適化して反復し、完全定着へ導く。グラフを見れば、生徒は自分がいま何を重点的に覚えなければいけないか一目瞭然になる。指導者も学習履歴と定着度の双方をリアルタイムで確認することで、実態に伴った指導やフォローが可能となる。
同社は、これらの機能に可能性を見出し、まずは小5・小6の中学受験生向けにMonoxerを導入した。受験期が最も早く訪れ、“失われた420時間”の影響が最初に直撃する世代だからだ。最優先は、暗記要素の強い理科と社会。小6になると同時に学校も塾も通えなくなってしまった中学受験生のために、小5までの学習内容を反復する家庭学習用ツールとしてMonoxerを用いたのだ。対面指導を必要とせず、進捗管理もオンラインで可能なため、遠隔指導との相性も良かった。
成果を受け、翌月には中1・中2・中3にも導入学年を広げ、また、英語等の他科目の利用も開始。現在は定期テスト対策や高校受験向けの活用を推進している。
また、Monoxerの特長の一つにオリジナルコンテンツを登録できる機能がある。同社では、以前からオリジナル教材『魔法のノート』が好評を博していたが、これをMonoxerに搭載。独自ノウハウで構成され、慣れ親しんだ自社のツールがそのまま使えるのは、指導者にとってはありがたいだろう。
自社の強みを活かすという点では、「添削指導ができることも大きい」と川畑氏。国公立中学受験は「適性検査型」という選抜方式が用いられ、ただ正答するだけでなく解法の解説を記述するような問題が出題される。同社はこの添削指導にも強みを持っていたが、これまで授業中にしかできなかった指導が家庭学習にまで広がり、失われた時間を取り戻すどころか、より手厚さが増すことを確信していると言う。
意外なところで、企業理念「人間大事の教育」を体現
導入して約3カ月、最初の試験がまだのため数値的な効果測定はこれからだが、学習意欲などには確実な手応えを感じていると言う川畑氏。また、予想外の効果もあったと声を弾ませる。「MonoxerのAI機能に感動し『ボクもこういうものを創る仕事がしたい!』と言い出した生徒がいたんです。『もっとこうしたら?』と、出題形式を提案してくる生徒までいました」。その姿は、同社が企業理念として掲げる、学力向上の先にあるものを大切にした「人間大事の教育」そのものでもあった。
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