2021年11月8日
ICTで学びを保障する“合理的配慮”シリーズ第15回 目の不自由なこどもへの合理的配慮(前編)
ICTで学びを保障する“合理的配慮”シリーズ第15回
「ICT機器を活用した目の不自由なこどもへの合理的配慮」(前編)
目が不自由な児童を担当すると聞いたら、みなさんはどのような児童をイメージするでしょうか?全く目が見えない?大きくしたら文字は読める?移動はできるのか?さまざまな不安が頭に浮かぶかもしれません。
片目の視力が低下することで立体的に見えないために段差につまずきやすかったり、視野が狭くなって中心しか見えないために本は読めるけど足元が見えなくて移動が困難であったり、中心だけが見えなくて移動はできるけど相手の表情や文字が読めない、コントラストや色の見え方に特性がある、夜だけ見えないなどなど困難さを感じる場面や対象もさまざまさです。
こんな話を聞いたら担当するのが大変だと感じた先生もいるかもしれませんが、最後まで読めば必ず自信がつきますのでご安心ください。私は目の専門家である眼科医として視覚障害がある患者に情報を処方し、企業で働く人の健康を支える産業医として視覚障害や発達障害がある労働者がある患者にテクノロジーによる情報支援を行ってきました。
医師として毎日多くの視覚障害者にアドバイスをしていますが、以下の3ステップを通して相談に乗ることで、どのような見え方の患者であっても対応に困ることはほとんどありません。関わり方のステップ1は「見え方と困難さの多様性を知る」、ステップ2は「提案できる情報の引き出しを増す」、ステップ3は「WhyよりHowで一緒に考える」の3つのステップです。
ステップ1の「知る」については、まず見るということの意味や見えないという状態の種類を知ること、見え方を正しく理解するというよりは見え方に多様性が存在することを知ることが何よりも大切です。
見え方の不思議に関しては、iSee!運動のページを参考にしてみてください。
次にステップ2の「提案できる情報の引き出しを増やすこと」について説明します。
現代の情報社会において、テレビやインターネット、書籍など多くの情報は視覚を通して届けられます。視覚障害者は移動障害をともなう情報障害者と表現されることがあり、視覚を通した情報の入手や移動に困難さがあることが多いです。一方で現在広く普及したスマホやタブレットの背面カメラなどを利用することで、視覚障害がある児童の学習上の困難さは軽減できる可能性があります。
タブレットやスマホのカメラを使って見たい対象を拡大したり、コントラストを変更する、テキストを写真にとって音声読み上げをさせるなどさまざまな視覚障害者用の情報支援アプリが存在しています。ステップ2として情報提供できるアプリの種類や機能を知ることで情報の引き出しを増やすことが大切です。多くのアプリが無料版が存在しているのでまずはご自身でダウンロードして実際に使ってみて、使い心地を比較してみることをお勧めします。
視覚障害者用のアプリ一覧はこちらをご参照ください
東京都障害者IT地域支援センターのHP
iOS
Android
スタップ3はステップ1、ステップ2で児童と対話する準備ができたら、いよいよ本人との対話になります。視覚障害者が感じる困難さは大きく分けて、見る・読む・知ることなどに大別できます。これらの種類別に本人が何に困っているかと、どうしたらできるかを一緒に考えることが重要です。以下に困りごとのポイントと具体的な解決方法を紹介します。
1)見ることに関する困りごと
対象となるものが小さいために見えない、コントラストが悪いため見えない、距離が遠くて見えないなどが主な原因となります。すなわち視認対象を大きくするか、コントラストをあげる、近くで見れるようにする方法を探ることが解決の糸口になります。
具体的な解決方法はタブレットやスマホの背面カメラの活用が一番効果的です。カメラを使って対象物を撮影して拡大したり、コントラスト変更が可能なアプリであればコントラストや色の組み合わせを変えることで見やすくなる人も多いです。
また最近のタブレットやスマホのカメラは望遠機能もついているため、端末をスタンドやアームで机に固定すれば席から離れた黒板をカメラで写すことで自分の目の前で黒板を見ることや写真にとってノートを取ることの代わりとして利用できます。
先生の中にはタブレットやスマホを授業中に使うことに抵抗があるという意見も耳にします。授業中に使用することに抵抗を感じる主な理由は学習目的以外のアプリの使用などがあります。私がこれまで推奨してきたiPadやiPhoneには児童が授業中に使用することを前提とした機能制限の設定としてアクセスガイドという機能が存在します。
視覚障害がある児童にとって板書という作業は非常に困難さを伴うことが多く、カメラの使用許可ができるかによって児童の学習意欲は大きく影響を受けるので、安全に使えるための方法に関する情報を持つことも重要です。また拡大しても見えない程度視力低下がある子供であれば、見る以外の方法で触覚を活用した学び方の提案が必要となりますが、大切なことはそれぞれの児童に合わせて情報が受けて取れる形を一緒に考える姿勢を持つことかと思います。
前半では3つのステップで考えることの大切さを解説しました。後半では見る以外の困りごとに対する具体的なポイントを紹介させて頂きます。
イラスト提供:Atelier Funipo
執筆者プロフィール
三宅 琢
株式会社Studio Gift Hands 代表取締役
公益社団法人NEXT VISION 理事
労働衛生コンサルタント・メンタルヘルス法務主任者として、働く人々のメンタルヘルスケアから人材育成まで職場で起こるさまざまな課題の解決やヘルスリテラシー向上のための教育・育成を行う産業医。iPhoneやiPadを活用した視覚障害者や発達障害者への情報支援をはじめ、建築や空間デザインの力で自ら治る未来医療の実現を目指し、病院デザインのコンセプトディレクターを務める等、医療、デザイン、建築の領域を超えた情報障害者への情報処方を行う眼科医。短歌やマネジメント本の執筆、日テレSocialの体コンデショング動画の監修や日本の伝統美の価値を伝えるEdge of Japanの運営支援を行うなど、マルチメディアでの対話を軸として社会課題を解決する社会処方を提案する社会医。三つのスタイルで人が豊に生きるためのウェルビーイングに関する哲学教育を行う医師、活動家。哲学・理念
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