2021年7月26日
コロナ対策と対面授業をどう両立させるか? 効果的な「ハイブリッド授業」の在り方を探る
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新型コロナウイルス流行を受けてこの1年間、多くの大学でオンライン中心の授業が試みられてきた。しかしいまや文部科学省から「十分な感染対策を講じた上での対面授業の実施」が要請されている。オンラインと対面を組み合わせた「ハイブリッド授業」は、どのように実現していくべきなのだろうか。シスコシステムズ合同会社 公共事業 事業推進本部 部長の田村信吾氏に、新しい授業の在り方について伺った。
コロナ禍によって変化した教育。オンライン授業の意外なメリットとは
──コロナ禍によってオンライン授業が急速に普及しましたが、現在の動向はどうなっているのでしょうか。日本と海外での違いなどはありますか?
田村氏: 国によって対応の差があるというよりは、大学によって取り組みが異なるようです。たとえば、オーストラリアはCOVID‑19の影響を抑えられている国ですが、それでもトップ校のメルボルン大学などはオンライン授業が基本となっています。全体的な傾向としては、フィールドトリップやワークショップといった少人数で実施する授業は対面、大人数に向けた講義はオンラインといった使い分けをしている大学が多いようです。
──感染が抑えられている国でも、オンライン授業を続けている大学があるのですね。オンライン授業にはどのようなメリットがあるのでしょうか?
田村氏: まずは小中学校も含めて、多くの先生がITツールの使い方に慣れることで、授業の提供方法がぐっと広がったと思います。また、意外にもオンラインによって距離感が縮まるケースが生まれています。受講した全員が最前列に座っているような感覚で話を聞けるので、対面よりも集中しやすいという意見が多く挙がったのです。授業中の発言や質問はチャットを活用することで、対面よりも気軽にできるようになったという声もあります。
学びにおいて、その道のプロに話を聞くことは重要ですが、オンラインによって専門家の話を聞きやすくなったことも大きなメリットとして挙げられます。というのも、これまでは講義会場に来てもらうための手続きや交通費の捻出が必要でした。それが今では、専門家にミーティング用のURLを送るだけで話を聞けるのです。
また、学生の発表の場を設けることも容易になりました。同じ大学内だけなく、他大学などバックグラウンドが違う相手にオンラインで発表することが可能なので、より豊かな経験が積めるようになりました。
さらに、家庭内で受講することによって、保護者が講義の様子を垣間見ることで、しっかり授業を受けているか、学校側が学生をどれだけケアしているのかを把握できるため、保護者の授業や学校への関心やロイヤルティ向上につながりました。
オンライン授業が抱える課題への対処法
──意外な効果も見えてきた一方で、オンライン授業の課題は何でしょうか
田村氏: 初期に多かったのは、ネット環境の不安定さによる学びの質の低下と各家庭のインフラ格差による機会損出です。自宅からネットに繋げられない学生に対しては、Wi-Fiがあるキャンパスを開放して、そこで講義を受けてもらうといった対応も見受けられました。
先生方がよく悩まれているのは、学生の反応が見えづらいことです。対面授業であれば、ピンときてない表情をしていたら噛み砕いて解説するなど理解度に応じてペースや課題量を調整できましたが、オンラインではそれがやりにくくなってしまいました。この対策として”いいね”などのライブアクションボタンやQA機能をうまく活用することで学生の反応を段階的に確認していくことをオススメしています。
また、グループワークなどを実施する際に学生間の熱量差による問題が生じています。一部の学生がグループに分かれた途端に映像をオフにして話し合いに参加しない、といった状況が見受けられるそうです。対面授業のように、ブレイクアウトした後も主催者が各班を見回ることが必要です。
それからオンライン疲れはどうしても起きてしまいますね。1日中モニタを眺めているのは、デスクワークを経験していない学生にとっては苦痛に感じるでしょう。孤立した状況で講義を受け続けて、メンタルケアが必要になってしまったケースも生じています。こうした課題から、今後は自然なオンライン授業を目指して、ヘッドセットや仮想背景を使わないといった工夫や、高音質・高画質を提供できるテクノロジーが重要になってくると思います。たとえばCiscoの「プレゼンタートラック」機能などを使うと、話し手をカメラが自動的に追いかけるため、オンラインでも普段と変わらない自然な授業を実現できます。
東北大学工学部や千葉工業大学によるハイブリッド授業の先行事例
──「キャンパスに行きたい」という気持ちを多くの学生が持っている中で、日本の文部科学省からは「対面授業を基本に」という要請が出ていますが、大学側はどのように対応していくべきなのでしょうか?
田村氏: 対面授業を再開したところ、想定以上に学生が集まってしまったために、やむなく中止したという事例もありました。一斉に再開するのではなく、オンラインと組み合わせながら段階的に移行するのがいいのではないでしょうか。
──物理教室とオンラインを組み合わせたハイブリッドな授業について、国内の先行事例を教えてください
田村氏: たとえば、東北大学工学部では「ひとつの講義を複数の教室で配信する」というスタイルをとっています。これによって学生を物理的に分散させ、教室の密度を減らしながら、1回の講義に参加できる学生を増やすことができますし、先生も同じ講義を複数回実施しなくて済みます。
東北大学工学部はコロナ禍以前から「同時双方向講義配信システム」の構築に取り組んでいました。研究機関としての大学の価値を高めていくために、基礎科目を効率的に提供して先生の負担を減らすことができないか、と模索した結果、配信システムにたどり着いたのです。
──コロナ対策以前から、オンライン授業にメリットを感じて取り組まれてきた大学があるのですね
田村氏: 千葉工業大学もその一校です。新習志野と津田沼にキャンパスがあるのですが、両キャンパスを行き来せずとも講義を受けられるようにと、コロナ禍以前からオンライン授業の準備を進めていました。現在は、板書をともなう講義では広範囲をカバーできる「Cisco Webex Room Kit」、ゼミ形式では臨場感に優れた「Cisco Webex Board」を使うなど、授業形態によってうまくデバイスを使い分けながら、先駆的なハイブリッド授業環境を確立しています。また、先生方がオンライン授業のスキルを身につけることによって、海外からのティーチング依頼を受ける機会も生まれているようです。
導入事例の詳細はこちら>> 東北大学 工学部│ 千葉工業大学
オンライン授業において重要視すべきはセキュリティ
──コロナ禍が終息したとしても、オンライン授業は続くと思いますか?
100%対面に戻ることは、もうないと思います。オンラインであれば、人気の講義でも履修希望者全員が受けられるなど、多くのメリットがありますし、選択肢として残り続けるでしょう。特に、留学生を多く受け入れる方針の大学は、オンライン授業の大きな可能性を感じているようです。
──オンライン授業を当たり前の選択肢としていくうえで、注意すべきことはなんでしょうか
それは「セキュリティ」です。高等教育機関におけるセキュリティインシデントは世界的に急増しています。大学は多くの人がアクセスする環境でありながら、価値の高い研究情報が集積していますから、ターゲットになりやすいのです。
前述した千葉工業大学はシスコのソリューションを選定した理由として「セキュリティの高さ」を挙げていました。実際にCisco Webexはアメリカの国家安全保障局から最高評価を受けており、特に政府機関と一緒に研究する大学から信頼を得られています。
──最後に、今後の教育に関する展望をお聞かせください
ツールやデバイスはあくまでも道具に過ぎません。「デジタルを活用していかにイノベーションを起こしていくのか」「優秀な人材をどう育てていくのか」が大学に強く求められていくでしょう。シスコの創業者は大学の研究者であり、「ネットワーキング アカデミー」というIT人材育成プログラムを世界で提供してきました。シスコシステムズはテクノロジーベンダーとしてだけでなく、イノベーションパートナーとしても、教育の質の向上をサポートしていきたいと思います。
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