2017年6月29日
体育館にドローン舞って声上がる、特別支援学校のICT活用
特別支援学校におけるICT機器の活用は有効だという話を聞いていて、一度拝見させてもらいたいと思っていたが、機会が無いままになっていた。ある公開授業で出合った、東京都立石神井特別支援学校の海老沢 穣先生から「ドローンを飛ばす授業をやるんですが、見に来ませんか」というお誘いを受けた。
特別講師はなんと、iTeachers TVでお馴染みの玉川大学学術研究所 AIBot(先端知能・ロボット)研究センターの小酒井 正和先生だという。これは、伺わないわけにはいかないだろう。
当日、会場となる体育館に入ると、小酒井先生がドローンを並べて調整・準備の真っ最中。「今日は、ドローンのプログラミングにも挑戦するんですか」と素人的な質問を投げかけると「プログラミングまでは難しいでしょうけど、一人でも多くの子どもたちに、ドローンを飛ばしたり、走らせたりする体験をして欲しいと思います」と、AIBot研究センターのエバンジェリスト(伝道師)としての発言。
授業のスタートは、小酒井先生の自己紹介とドローンのデモフライト。体育館の天井に向かって飛び上がり、子どもたちの方に向かってホバリングすると、大型スクリーンに子どもたちを上空から捉えた映像が映し出される。歓声が挙がり、皆で大きく手を振る。
体験学習スタート。子どもたちが挑戦するのは、走るドローン「ジャンピングスーモ」。小酒井先生がデモで走らせ、ジャンプをしてみせると子どもたちからは「はねた~」「やりた~い」と声が上がった。
「ジャンピングスーモ」はプログラミングで走らせることも可能だが、特徴は搭載したカメラの映像をiPadで見ながらリモコン操縦ができること。iPad慣れした子どもたちは、いくつかの操作ポイントを覚えて、タブレットをハンドルのように左右に傾けながら、真剣にドローンを走らせていた。
中には、教わってもいないのに、走りながらジャンプして平均台を飛び越えるというミッションにチャレンジする子もいて、成功すると子どもたちからは「おお~っ」と歓声があがった。
自分の思うように走らせて満足したのか、スキップして戻っていった女子生徒を見て担任教師は、「あの子、午前中の防災訓練の授業がいやで、ず~っと泣いていたんですよ。あんなに楽しそうになるなんて」と、ドローン授業の影響力に驚いていた。
続いて子どもたちが挑戦したのは、いよいよ飛ぶドローンの操縦。自ら手を挙げ、進んで挑戦しようというだけに、どの生徒も上手に飛ばそうと夢中になる。
自信ありげにタブレットを受け取って、ドローンを飛ばし始めた男子生徒は、安定した飛行からホバリングしたかと思うと、その場で突然宙返りをした。それも、連続で。体育館に「おお~」という子どもたちの声が響き、小酒井先生からは「僕よりも上手じゃないか」という賞賛の声がこぼれた。
海老沢先生からは、「さすがに普段からゲームで鍛えているから、慣れたもんだね」と納得の弁。その後も何人かの生徒が、少し指導を受けただけで、自在にドローを飛ばし、電池切れギリギリまで挑戦を続けていた。
授業の最後には、全員でドローンカメラに向かって記念撮影を行った。
授業終了後、海老沢先生に石神井特別支援学校における「ICT活用」について話を訊いた。
同校では、学校経営計画に「ICT機器を取り入れた学習活動を推進し、ICTを活用することにより高い教育的効果を実現する」という目標を立てている。2015年度には東京都ICT活用推進校、2016年度には東京都情報モラル推進校に指定され、知的障害特別支援学校におけるiPadを活用した授業実践を推進している。
現在、180名の児童生徒に対してiPadは25台。授業での活用方法としてはまず「視覚支援」としての活用がある。授業の導入で文字・シンボル・写真等を併用し「Keynote」で作成したスライドを提示することで、生徒が授業の見通しやイメージを持ちやすく、課題意図を理解して自分から意欲的に取り組めるという。
また、iPadの導入により授業で動画を活用することが可能になったという。動画は注目しやすく、イメージが伝わり易い。さらに動画編集アプリ「iMovie」で映像の編集を行い、動画に効果を加えたり文字を入れたりすることでより分かり易く授業を進められるようになった。
中学部の美術では、タブレットを活用することで以前に比べて様々な映像メディア表現が実現可能になったという。コマ撮りアニメーションの制作やプロジェクション・マッピングを利用した身体表現による創作活動にも取り組んだという。
そのほか、ロイロノートを使った「物語作り」、3Dプリンターで型をとった「クッキー作り」、校外活動で写真を撮影しパワーポイントでの「スライド制作」など、タブレットを活用することで様々な新しい取り組みが可能になった。
2016年度の活動では、プログラミング学習にも取り組んでいる。
レゴのプログラミング学習ロボット「WeDo2.0」を使って車を作り、iPadのアプリでブロック状の命令を組み合わせてプログラミングを行い、目的まで到達するというもの。さらに、車に主人公を乗せて走る様子を動画撮影し、ロイロノートに取り込んで物語にするという段階まで行うのだという。
中学部の全生徒82名で取り組んだのは、ビジュアルプログラミング言語「Viscuit(ビスケット)」を使った職業・家庭の授業。一人ひとりが描いた絵を全員で共有できる機能を活用して、アニメーションを協働で制作できる楽しさを体験した。「Viscuit」の特徴でもある、めがね(入力ツール)を使った絵を動かす基本的な原理について予想以上に理解できる生徒が多く、今後も中学部全生徒を対象とした活用を検討していくことになったという。
実際に体験したことで、子どもたちの可能性が広がるのは、今回の「ドローン体験」でも同様である。
海老沢先生に、特別支援学校における今後のICT活用の可能性について訊ねると、「特別支援学校におけるICTの活用には、多大な可能性があると思います。ただ、視覚障がい、聴覚障がい、肢体不自由など他の特別支援学校だと、障がいをサポートして学ぶための活用というのがある程度絞れますが、当校のような知的障がいの場合、どのような活用方法が有効的なのかなかなか絞り込めない難しさがあります。でも、今日ご覧頂いたように、思わぬ力を発揮する子や、楽しんだり、喜んだりする姿を見ると、様々な取り組みをやってみることが、利用方法を確立していく近道だと思います」と、今後の取り組みにも前向きな姿勢を示した。
特別支援学校の教育は、障がいがあっても社会で生き抜いていくために必要な基本的な力を育むことも目的にしている。「社会全体がICTを活用するのが当たりまえになっているのだから、かれらの働く環境でも当然そういうスキルが求められていくことでしょう。だから、ICTを活用した学びを深めていきたいのです」と、海老沢先生は次期学習指導要領が掲げるのと同じ目標を語ってくれた。
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