2016年3月15日
愛和小学校2年半のICT活用発表会 まとめはSTEM
東京都多摩市立愛和小学校は、2013年10月に1人1台タブレットを導入して以来2年半、「ICTを活用した新しい学びのあり方」を追求して様々なチャレンジを続けてきた。到達したのは「20年後の未来から逆算したSTEM教育」だった。
愛和小学校は3月12日、2年半に亘るICT活用チャレンジの集大成となるイベント「「i和design-Final Presentation(その到達点と未来)」」&「楽しく表現する子の育成~ICTを活用した言語活動を通して~」を開催した。
午前中の公開授業、一覧表を受け取った参加者は皆一様に困惑した表情を浮かべる。1年生から6年生まですべてのクラス、すべてのコマで1人1台PC端末(iPad、MacBook、Windowsタブレット、Windows PC、Chromebook、Androidタブレット)を使った授業が行われる。
もちろん、使用されるアプリも多種多様。ロイロノート・スクールは基本として協働学習支援アプリの「School Takt」、プログラミングは「Minecraft」「Viscuit」「Scratch」、3Dアプリの「Shade 3D」やコマ撮りアプリの「KomaKoma」、音楽制作アプリの「GarageBand」や「レゴ マインドストーム EV3」と「BB8」を使ったロボットプログラミング、その他Skypeによる外国人講師との英会話授業など。どこの何を見に行けば良いのか。
1時限目が始まる前に、1年1組の教室に行ってみた。全員がタブレットを出して朝学習中だった。1人1台を始めて最初に取り組んだ試みのひとつ「アプリゼミ」のドリルだ。一人ひとりが自分の課題に自分の進度でチャレンジする。タブレットを使ったドリル学習は、ICT活用の成果が現れやすい学習法のひとつだという。
1時限目の授業、TENTOの竹林 暁代表がTT(ティームティーチング)を務める「Minecraft-Edu」をつかった5年生のプログラミング授業。最近話題の「Minecraft」を使ったプログラミング授業とあって、参加者の関心が高く教室は幾重にも人垣が出来た。プログラミング授業にも公開授業にも慣れている子どもたちも周りの人の多さには多少の圧力を感じているようだった。
「Minecraft」と「Creatubbles(クリエイタブルズ)」を使った3年生の図工では、自分たちの制作の参考に「Minecraft」内のバーチャル美術館を見学。グループの代表としてのキャラクターが館内を歩いて見学していく。
ある程度見学が済むと、館内を高速で移動したり、外の世界に飛び出したり勝手な自由行動が始まる。あるグループの児童が叫ぶ「あ、だれかおれのことぶった」。館内をぐるりと見回す。すると別のグループのキャラクターが遠くに見える。追いかける。「あいつだ。どうやってぶつんだ」「こっちこっち。これをこうするんだ」。授業で使うのは、ほぼ初めて。教えてもいないのに、その世界の成り立ちや使い方をどんどん吸収していく。今はまだ遊び感覚だがいずれ、こうした興味、関心が学びの成果に結びついていくことだろう。
2時限目は「Viscuit」を使った1年生のプログラミング授業。TTは「Viscuit」の開発者で計算機科学者の原田康徳氏。子どもたちからは「博士」と呼ばれている。
プログラミングというと文字を書き込むイメージだが、「Viscuit」は絵でプログラムを作り、実行すると絵が動く。プログラミング用語などを覚えなくても、プログラミングの楽しさを知ることができる。プログラムを作る「めがね」を使って、アニメーション、ゲーム、動く絵本などを簡単に作ることがでるのだ。
3時限目は、プログラミング&エンジニアリング教室STEMON(ステモン)の中村一彰代表がTTとなった「Scratch」を使った3年生のプログラミング授業。
公開授業一覧の教科欄に「プログラミング」と記入されているように、愛和小学校では本年度、総合的な学習の時間を使い10数時間のプログラミング授業を実施してきた。正式な教科として「プログラミング」に取り組む授業は公立小学校として日本初ともいえる試みだろう。愛和小学校のプログラミング授業を立案・実施してきた中村代表は子どもたちとの呼吸もピッタリで、迷路ゲーム作りの授業をやりとりしていた。
5年生と6年生合同のプログラミング授業では、「レゴ マインドストーム EV3」を使った宇宙エレベーター競技にチャレンジ。昼休みのセレモニーで、全校生徒の前で行われる決勝大会に向けた予選会が行われた。
予選会ではどのチームも、昇るのも荷物を置いてくるのも苦労していたが、決勝に進んだ3チームは本番ではそれぞれ見事な動きを見せ、得点を挙げていた。
午後からは研究発表会が行われた。
指導講評を行った大阪教育大学の寺嶋 浩介准教授は、「1人1台ドリルチャレンジ」から始まり「ロイロノート・スクールのプレゼンテーション」、「School Taktでの協働学習」、そして「プログラミング」までの2年間半を総括した。
そして、「これからは学校のシステムも変えなければならない、愛和小学校でも見られたように校長が中心となって外部との関係を積極的に築かなければならない。校長も教師も、『外で学び、外に発信する』姿勢が重要だ」と、ICTを活用して学校が変わるには、学校のあり方も変えなければならないとまとめた。
特別講演で登壇したパナソニック教育財団理事で日本教育情報化振興会の赤堀侃司会長は、「時代が変われば、教育システムも変わるし、学習の仕方だって変化する。まじめに言われた通りにやる教育ではダメ。“思考力・表現力・判断力”が身につくような、子どもが主体になる学びが必要だ。そのためにICTを活用して、自分で学習したりアクティブラーニングで協働学習したりして、学びを変えて欲しい。少子化で貴重な子どもたちに、自分で考える力を。」と、教育現場に未来に向かって一歩踏み出すことを要望した。
まとめに立った松田 孝校長はこれまでの活動を振り返り、「学校の役割は、時代や技術を学ぶ最先端の場である。20世紀のやり方は、ナンセンス。21世紀に必要なスキルは21世紀のやり方で教えるべき。そのキーワードは、20年後の未来から逆算した“STEM”だ。愛和小学校では、公立学校の新しいやり方を示せたと思う。これからは、“i和designeチーム”を結成して、全国ツアーをやってみたい」と、ICT活用教育普及に向けた『エバンジェリスト宣言』で研究発表会を締めくくった。
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