2019年7月16日
VR教材で患者体験をしよう〜仮想現実でICTを活用した看護師育成講義〜
【寄稿】旭川大学 保健福祉学部看護学科 宮崎剛司
本単元を指導するに当たって、看護師の育成に仮想現実(VR)を用いた授業を行い、これまでの授業では難しかった患者体験を可能とすることで、看護師として必要な教養を豊かにすることに重きを置いた。これまでの授業では、模擬患者やシミュレーターを使って看護師に必要なスキルを学んでいる。しかし、模擬患者では演者の裁量で学びに差違があり、またシミュレーターでは準備からコストまで様々な課題があった。そこで、VR(Virtual Reality : 以下VR)元年と呼ばれた2016年を境に安価で身近なデバイスになったことを利用して、これを容易に授業で活用できるよう教材の研究を科学研究費補助金のもとで行ってきた。同時にヘッドマウントディスプレイ(Head Mounted Display : 以下HDM)によるVR教材の学習後は、タブレットを使用しながら復習できるようにして、場所と時間を問わずいつでも学習できる機会を提供した。
災害看護を学ぶ
2019年から、災害看護論で看護師育成のためにVRを導入した。災害における看護師の役割に、“心のケア“という重要な各論がある。学びを深めるためには、これまでの視聴覚教材では、学生は受動的な学びであり、これをVRの活用により能動的な学習方法へと転換を図ることで、災害に遭われた方への姿勢が大きく変わるのではないかと考えた。そこで、授業で学生は、VRにより災害現場から避難することを体験した。
授業後のアンケートでは、「実際にその場にいるような感覚であった」、「リアリティがあった」、「簡単にこのような経験ができて、他にもいろいろな体験をしたい」、「こんなにも大変な思いをして生き延びてきたなんだ」など、VR教材へ肯定の意見が多かった。この体験により、災害を経験した被災者の気持ちに少しでも近づけられたと思う。
災害や入院を身を持って体験した経験がある学生は、相手の立場にたった考察ができることが多い。しかし、現実的にこのような経験は難しいことである。VRに用いて災害を体験した相手の立場にいかに寄り添えるかは、看護師としての実務経験などと関係していることと思うが、このVR教材による学習方法で、学生のうちから早い段階で体験した学生には、卒後のリアリティショックに負けないことにも繋がり、新卒離職者の減少への社会貢献性があると考える。
VR教材とICTを活用した授業とは
VR教材は、HMDを使用することで360度の画像を視聴できることを可能にして、学生は好きな箇所を自ら選択して視聴することで能動的な学習方法である。同時刻で同じ動画を視聴しても、学生はそれぞれ見ている箇所が異なる。
この点は、これまでの視聴覚教材とは異なり、VR教材の学習は効果的な指導に繋がる。見てほしい、学んでほしいところを視聴後は確認しやすく、また、同時にここも見る箇所として必要であったなどと多重課題の克服になる。さらに、タッチパネルの可能なタブレットを使用し、動画を操作しながら復習することも可能とした。
VRは、集団教育には向かないと言われている課題にも、ICTの活用によりHMDがあれば、同時に同教材を使用し学習できた。また遠隔で手術室の動画をリアルタイムで体感することも可能となる。
看護学におけるICT教育の可能性
あと数年でゲノム解析が更に進み、医療や薬において、オーダーメイドの治療が可能となる。このPrecision Medicineの目的は、「最適な治療を最適なタイミングで」届けることでもある。これは、看護においても同様であり、医療の現場では、患者と長い時間を共有するにあたり、看護師にはスキルの向上は勿論のこと、患者の精神的な支えも必要である。しかし、現状は新卒離職率が高く、看護師に憧れていた学生の想像とは違うリアイティショックが原因のひとつにあると考えられる。
そこで、私の研究は、VRを活用した教育を、全国でも看護学では先駆けて実施してきた。科学研究費補助金にも採択され、さらに現在では研究が進み、看護はこれからICTの活用でも大きく良い方向に変えられる。是非、それに向けて次世代の新しい教育を学生には提供したいと考えてICTを活用した学習方法を提供している。
本研究また講義を通してVRでは、普段は行けない医療現場を、疑似体験でありながらも現実に近い没入感が研究結果で証明された。これにより学生は、想像力や対応力、判断力が育むことができるとわかってきた。その他にも、VRは、患者の疼痛緩和や、寝たきりの患者が結婚式に出席するなど好きな場所に行くことができる。つまり、さまざま患者の背景に合わせて、例えば”看護師がICTを処方する”なんてこともこれからの時代ありえることだ。
今後、これらの授業方法は、様々な学問に応用が可能であり、さらに2020年度からの5G導入によりこの活用は加速することと思われる。
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