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2020年12月17日

SPI非言語分野の学力向上を目指して無学年方式「すらら」の活用/湘北短期大学

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湘北短期大学(神奈川県厚木市)では、学生の基礎学力を上げるために2018年度から「すらら」を活用している。企業の選考で広く採用されているSPI非言語分野の学力向上を軸足に置き、理解力アップを目指して適応学習を採用した。半年間、週に90分の授業ながら、動機付けやシラバスに工夫をし、基礎学力の底上げに成功。さらには十数年ぶりに応用情報技術者試験の合格者を2名も輩出した。

適応学習教材の中で、無学年方式を採用する「すらら」を活用

現在、日本の大学・短期大学への進学率は50%を超え、学生の多様化が進んだことから、多くの大学で基礎学力の低下が課題となりつつある。湘北短期大学も例にもれず、基礎学力の向上が喫緊の課題であり、特に初歩的な数理の問題はすべての学生が獲得すべきだととらえている。ところが、克服するにも、学生による学力レベルのばらつきが激しいという問題があった。

内海太祐 教授

同短期大学の内海太祐教授は「『この部分で躓きがち』というボリュームゾーンがないところが難しい。躓いたタイミングが小4の算数という学生もいれば、中1~中3の学生もいるのです。間を取って中2の学習レベルをベースに授業をすると、小学生の算数で躓いている学生にはまったくわからず、高校の数学をわかっている学生には退屈すぎる」と、これまでの苦労を語る。

理想的には個別学習が必要だが、教師1人に対し多くとも5人程度の学生までが限度だろう。人員的に難しいため、ひとりの教師が数十人を教えることになり、基礎学力の向上を目指す「キャリアベーシック(SPI)」の授業は困難を極めていた。

そこで目を付けたのが、適応学習(アダプティブラーニング)だ。ひとりひとりの習熟度や理解度に応じて、適した問題と解説を提供し、効率よく学習できる仕組み。「適応学習の仕組みを使えば、個別学習のような効果が見込めます。いくつかの教材がある中で、多くは受験をターゲットにしており特定の学年に最適化されています。そのため、私たちの目的にはマッチしません。その点、『すらら』は無学年方式なので、私たちの課題に当てはまるだろうと採用しました」と内海教授は言う。

オリジナルのシラバスと身近な例による動機付け

「すらら」を導入したのは2018年の後期(9月)の授業からで、週に1回90分の「キャリアベーシック(SPI)」で実施した。まずは、PCを常時持っている学生に対して導入。対象となったのは、「情報メディアコース」の「ITプログラミングフィールド」と「ITメディアデザインフィールド」に所属する45名ほどだ。2019年の後期からは「経理・金融フィールド」を加え、約50名に対して導入している。

導入の際には、教材の具体的な配置を示すシラバスとして、テスト01~20を作成した。学生にはテスト01から順に受けてもらい、80点以上を獲得したものについては次のテストに進めるとした。十分な点数を取れなかった場合には、該当する「すらら」の教材を使って復習する。

SPI対策に於けるすらら教材の運用方法(内海教授のレポートより)

教材を用意しただけでは学生が意欲を持って取り組むのが難しいため、学習動機づけの工夫を施している。ひとつには授業の開始5分程度で、苦手意識を持つ学生に強迫観念を抱かせないよう配慮しつつ、基礎学習の重要性を説くこと。内海教授は「例えば、『あるアスリートがスランプから脱するためにしたことは先進的なトレーニング法ではなく、基礎を見直すことだった』という新聞記事を見せたり、『偏差値40の女子高生が慶応大学に合格した物語から、人が躓くところはそれぞれ違い、そこからスタートすれば比較的短時間で結果が出る』と紹介したりします」と説明する。こうして「学ぶ意味」を伝えながら取り組ませることで、学生の意欲が高まる効果を狙った。

また、成績評価の基準にも工夫がある。3つの項目「学習時間」「伸び率」「最終的な到達点」を基準として、ある計算式により評価する。狙いとして、暗記やその場しのぎに陥らないよう「学習時間」を設け、もともと基礎学力が低い学生にも不利にならないように「伸び率」を用意している。さらに、もともと基礎学力のある学生は「伸び率」では不利になるため「最終的な到達点」の基準が有効となる。学力の高低に関わらず納得感のある評価の仕方をすることで、学生の意欲を引き出していると言える。

十数年ぶりに「応用情報技術者試験」合格者を輩出

ITプログラミングフィールドの散布図(内海教授のレポートより)

2018年に実施した学生に対して効果検証を行うと、就職活動の際に企業の試験に筆記テストで「足切り」を受ける生徒はほぼいなくなったという。また、例年1名程度の合格者だった「基本情報技術者試験」にすでに6名が合格している。さらには、過去20年に1人しか合格していなかった「応用情報技術者試験」に2名も合格者が出ている。

全体の効果を見るためには、授業を受ける前のプレイスメントテストと、授業を受けた後のマイナビ模擬テストの点数を利用。従来どおりの講義形式である「キャリアベーシック(SPI)」の授業を受けた学生と、「すらら」を用いた適応学習を実施した学生で比較した。

従来型の授業を受けた学生と比較して、適応学習を実施したフィールドでは、もともと学力が下位層であった学生の学力の向上が顕著に見られた。さらにITプログラミングフィールドにおいては、上位層の学力も向上している。

学生たちが『やろう』という雰囲気に変わった、と語る内海教授

さらに、内海教授は学生に対する態度の変容を強く感じているという。「大学の授業は自由度が高いので『易きに流れる』という側面があります。それもあり、実力があると感じる学生でも、なかなか上位資格を取れない実情がありました。ところが、全体が底上げされたことで、学生の『やろう』という雰囲気に変わった。例年と比較すると、違う学校で教えているような印象を受けます」と内海教授。

今後はほかのフィールドにも広めたい考えだが、PCやタブレットなどの端末が必要で、それらの操作に習熟していなくては効果が見込めないといった課題もある。さらに、学習意欲の維持管理は教員に依存する面が強く、場合によっては学生によって運用方法を変える必要性も出てくると考えられる。高等教育機関においては、単に知識や技能を習得させるより、「継続的に学ぶ姿勢」を獲得させる方が優れているという考えのもと、評価基準も慎重に定める必要があるだろう。

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