2017年5月15日
1人1台の佐賀県で「チームすらら」から始めるICT活用/龍谷高校
佐賀県と言えば日本一のICT教育先進県。県立高校は全校1人1台情報端末を保有し、教師のICT研修率も日本で一番である。そんな佐賀県にある私立高校では、どのようにICTを活用しているのだろうか。公立との競争、差別化という観点では「1人1台」は当たり前でその先に何をやるべきか、とつい考えてしまう。
そんな中、インターネットを通じてゲーム感覚で学ぶことができる、対話型のeラーニング教材「すらら」をICT活用の手始めとして取り組んでいる高校があると聞き、訪ねてみることにした。
佐賀駅からバスに揺られて15分。郷土の偉人、大隈重信侯の生家と記念館を過ぎたあたりに佐賀龍谷高等学校はある。浄土真宗を基盤とした龍谷総合学園グループに属し、「感謝できる人を創る」を目標に、5+1の教育プログラムを推進している。
龍谷高校には、難関国公立大学や私立大学の医・歯・薬系へ現役合格を目指す「特別進学科Excellent 特進コース」、佐賀大学をはじめとした国公立大学、有名私立大学ヘ現役合格を目指す「特別進学科 特進コース」、有名私立大学、中堅私立大学への現役合格を目指す「普通科 文理進学コース」、全員が希望の進学先、就職先ヘ、が目標の「普通科 総合コース」、そして、心の教育を基盤とした保育士・幼稚園教諭になること、が目標の「普通科 保育コース」の5コースがある。5+1の5はそれを意味するものと推測したが違っていた。
5+1の1は、建学精神に基づく「心の教育」で育む「人間力」。5+1の5とは、「キャリア教育」「ライフスキル教育」「グローバル人材育成」「学力向上」、そして「ICT教育」もある。
現在のICT教育環境について、德重清隆校長(取材当時)に訊ねると、「いやあ、まだ始まったばかりですよ。新校舎の3,4階の教室にWi-Fiを設置して、電子黒板を8台、タブレットPCが30台といった感じです」と遠慮気味に語ってくれた。
ICT活用の目的について德重校長は、「ICTの活用で授業が変わればいいなあ、という思いからです。当校では、進学希望の生徒が多いが、基礎学力が満たない生徒も多い。ICT活用の一番の目的は、学力の向上ということです」と、現実的な答え。
ICT活用といえば、無線LAN、電子黒板、1人1台タブレットPC、授業支援アプリ、あたりから始めるのが普通の手順だが、「すらら」からスタートするのは珍しい。
ICTへの取り組みのスタートがなぜ「すらら」からなのか、德重校長は「佐賀県といえば1人1台と思われるかもしれないが、タブレットを持たせても何をやるかが大切です。生徒も教師も最初から成果をあげる取り組みをするのは大変なことです。当校では、“ICT活用で学力向上・進学実績の向上”という具体的な目標があるので、そのために何をすれば良いかを検討して、ツールではなく教材から始めることにしました。“すらら”がいいらしいと聞いて、視察に行ったりもして、2016年度から導入を決めました」と、1人1台に拘らない、ICT活用の経緯を語った。
今回「すらら」を導入したのは、普通科の総合コースと保育コースの1年生。生徒の中には、中学以前の基礎が十分でない生徒も多く、学力向上のためには、個々のサポートが必要となってくるが一人ひとりの弱点を詳細に探し出して対応するのは難しい。
「すらら」を選んだ理由の一番が、個別学習に向いている点だ。AI(人工知能)や独自のアルゴリズムが個々のレベルにあった問題を提示して、基礎固めからやり直してくれる。一人ひとりが各々のレベルにあった問題に取り組むことができる、最近話題のアダプティブ・ラーニング。また、PCや動画を使った学習方法もスマホやゲーム慣れした今の子どもたちに適しているのではないかと校長は感じているという。
実際に「すらら」をどのように利用しているのか、「チームすらら」のメンバーに訊いた。
全体の進捗管理を担当する久我教諭によると、「すらら」の利用状況は、数学Aの3単位の1時間を「すらら」の時間ときめて、毎週1時間授業で利用。国語と英語は時間を決めずにやっているが、PCルームが空いていれば授業でも利用する。平均すると「すらら」を使った学習時間は、週に1時間+αといったところだ。
月水金の放課後はPCルームを開けて利用できるようにしているが、部活で参加できない生徒や寮生のために水曜日の朝には「朝特課」を実施し、学習機会を設けている。
「すらら」の特徴の1つに、個人別の進捗管理が行いやすいというのがある。「チームすらら」では、久我教諭が担当し、2週間に1回くらいの頻度で担任へ進捗状況を報告し、担任から進捗が遅れている生徒には放課後に残って学習をする指示を出してもらうなどし、フォローを実施してもらっている。
「すらら」導入の効果について久我教諭は、「1学期の数学の欠点者数を“すらら”導入前の昨年度と比べると、本年度は半減しました」と、成果の手応えを実感しているようだ。
数学を担当する山﨑教諭は、「“すらら”のアニメーションの先生の方が分かり易い、という生徒もいます。たしかにキャラクターが出てきて面白いので、生徒が取り組みやすいというのはあるかもしれません。こういうツールを使う上での教師の役割は、“すらら”のやり方を補強したり、関連付けたりしながら深い学びに導くことだと思います」と、役割分担が必要だという。
成果については、「2次関数とかでつまずく子も多かったが、今年は進めているし、成績の上がった生徒や、理解力が高くなった生徒も多い。“すらら”が効く単元があります。三角関数、2次関数、面積問題などです。アニメーションに動きもあって分かり易いのではないかと考えます」と分析してくれた。
英語を担当する八田教諭は、「すらら」の問題は記述式が多い点を評価する。「これまでもノートに書くということを大切にしてきましたが、“すらら”の問題は記述式の問題が多いため、書く代わりにタイピングをするという作業を伴います。選択式の問題では単語が分からなくてもできますが、記述式ではそうはいきません。書くのと同等の学習効果が期待できるのではないかと思います。また、1学期はキーボードを使い慣れていないという問題があり、入力ミスにより”×”になってしまうケースも散見されましたが、3学期には誤字脱字なく入力ができるようになり、タイピングの習得にも役立ちました」と語った。
国語を担当する平井教諭は、課題の設定、生徒の達成感、成果の評価などで難しさがあるという。しかし「中学の学習や日本語の基礎といった基本を見直して学ぶ、という機会はなかなかないです。“主語・述語・修飾語”といったことから学び直すことはできませんが、“すらら”ならそういう土台作りから学び直すことができます。これまで何故分からないか分からなかったことが理解できるようになったりします。ただ、テストの成績アップに役立ったかどうかの評価は難しいですね」と、一定の成果を感じつつも、今後に向けた課題を話した。
「すらら」からスタートしたICT活用について德重校長は、「本校が目指すのは、ICTを活用して先生たちも生徒たちも一緒に学び合ってスキルアップする、“学び合う学校づくり”です。そのためにはICT活用が必要です。いいもの、必要なものはできる限り導入します。“すらら”を導入して1年。それなりに成果はありますが、本当の成果は3年やってからでしょう。進学校として生徒個人の目標に到達させてあげたい。大学、短大、専門学校とか・・・。そして、“3年間学んで良かった”と保護者と生徒が満足できる学校にしていきたい」と、ICTを活用した龍谷高校のビジョンを語ってくれた。
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