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2014年8月29日

先生のための初級ICT教育講座 Vol.4「反転授業入門講座」

先生のための初級ICT教育講座 Vol.4
「反転授業入門講座」
ハンテンシャ 代表取締役 加藤 大

学校の教室で行われる授業といえば、一斉授業が長く一般的でした。一定の成果を上げている伝統的な授業形態ではありますが、その特長を維持しつつ、より学習者の主体的な学びを実現する「反転授業」という教育制度が注目を集めています。

2014年4月から佐賀県武雄市が公立小学校で本格的に導入するなど、日本での取り組み事例も増えてきました。そこで、今回の初級ICT教育講座では、反転授業の基本的な知識を紹介します。

反転授業とは

反転授業とは、講義形式のカリキュラムを動画で予習した学習者が、教室で演習に取り組むための教育制度です。教室で講義を行い、演習を宿題にするこれまでの授業に比べると、「講義」と「演習」を行なう空間が「反転」するわけです。講義と演習の反転に伴い、学習者の学習姿勢と教員の役割が大きく変わって、教室内外の光景が一変します。

反転授業は、米国の中学校や高等学校の先生たちが試行錯誤する過程で広まっていきました。パイオニアの一人である、アーロン・サムズ教諭の化学の反転授業の様子をYouTubeで視聴することができます。

反転授業の特長

予習で得た知識をもとに、教室で演習に取り組む ―― 反転授業の教育方法は目新しいものではありません。「次の授業までに教科書10ページ分を読んで、内容を理解しておくように」 このような予習課題を全員がこなし、教室では予習内容を前提とした演習に専念できるハイレベルなクラスなら、反転授業は不要です。

反転授業が画期的なのは、「動画の視聴」を予習の一手に加えた途端、「一方的」「指示待ち」「受け身」「報酬志向」「居眠り」「代返」「私語」「スマホいじり」など、一斉授業が抱えていた悪循環を好循環へと一転させる効力があるからです。

いままで教室で行っていた「講義」を予習に変えれば、教室にいる時間を予習で得た知識の定着や応用に割くことができます。授業中にペーパーテストを行ったり、レポートを書かせたり、持論を発表させたり ―― 必然的に演習中心の授業に変わっていきます。

教員には新たに、学習者の「演習」行動を授業中に評価したり、演習の到達目標に近づくよう支援したりする役割が求められます。教員がこの役割を果たすにつれ、学習者は自分の「演習」行動の質にこだわるようになり、質の向上に必要な「動画の視聴」を欠かさなくなるのです。

反転授業のタイプ

反転授業は学習目的に応じて、2つのモデルに大別することができます。

1つは、個人のペースに合わせて学習を進める「個別学習型」。「個別学習型」の教室は一見、塾や予備校の自習室のようです。ただし、様々な生徒が出入りする自習室と異なり、演習に取り組むメンバーが固定されています。この固定化によって自発的なピアラーニング(*1)が促されるため、わざわざ教室に集まって個別学習を行なう必然性が高まるわけです。

アーロン・サムズ教諭の共著「反転授業」”Flip Your Classroom”では「反転型完全習得モデル」”the Flipped-Mastery Model”と命名され、一人ひとりが自分のペースで学習を進める教室の様子が詳しく描かれています。「(教員が)教室内を巡回して、一番苦戦している生徒を見ることに最大の時間を割く」(p.55)ことができる「個別学習型」は、「落ちこぼれ防止」に有効です。

もう1つは「協同学習型」。教室を社会の縮図と見なし、教員やクラスメイトとの対面コミュニケーションを通じて思考力や表現力を養うモデルです。「協同学習型」の予習動画には演習のレディネス(*2)を揃える目的に加えて、動画を視聴してから授業に出席するまでの間に「仮想演習」を促すねらいもあります。eラーニングシステムに記録される予習動画の視聴日時と、教室での「演習」行動の質を照合すると、「仮想演習」をして授業に臨んでいるか、ある程度推測することもできます。

予習や演習の行動を観察しながら、授業1コマごと、あるいは1コマの中で2つのモデルを柔軟に使い分けたり、2つのモデルを融合した演習を設計したりできるのも、反転授業の特長です。

反転授業の工程

「個別学習型」「協同学習型」ともに、「評価基準」→「授業」→「予習動画」の順に設計します。

「個別学習型」の場合、すでに形成的評価(*3)のテストを実施している授業であれば、反転授業の導入負荷を抑えることができます。導入前と変わらず、テストの正解率が評価基準の1つになるため、導入前後で比較して学習効果を測定できるのも大きな利点です。

個別学習の原理に従えば、「授業単位」ではなく「単元単位」でカリキュラムを体系化し、一人ひとりが自分のペースで学習を進めことができるように、すべての予習動画を期初に公開しておくのが理想です。

「協同学習型」の場合、演習のパフォーマンスの評価基準になるルーブリック(*4)の作成が最初の工程になります。学習者ごとにルーブリック評価を適用するなら、適用人数や評価項目数のバランスを考慮して設計しないと運用に耐えられなくなります。次にルーブリックに従い、演習課題を考案します。さらに演習のパフォーマンスに必要な前提知識を選定し、予習動画に反映します。

「伝統的な授業」から「協同学習型」に移行するには、大きな負担が生じます。チームティーチング(*5)を実現する要員の確保や、いきなり全コマではなく段階的な導入計画の立案をお奨めします。

導入負荷を抑えるには、予習動画の作成に工数を割かないのが鉄則です。たとえ手間ひま掛けて、魅力的で好奇心が湧く動画を作っても、動画のスタートボタンがタップされない限り、その魅力は伝わりません。効率的な予習の動機づけとして、授業での対話を通じた「演習」行動の評価・支援に勝るものはないはずです。

反転授業の課題

学習者全員に予習動画の視聴環境を確保できないと、反転授業は成立しません。大学生や専門学校生ならスマートフォンの個人所有率が高い上、学内・校内にしばしばPCルームが設けられているため、容易に成立します。

課題になるのは、高校以下の教育段階です。アーロン・サムズ教諭は「可能な限りかたっぱしから(助成金を)申請」すべきと提案します。佐賀県武雄市の公立小学校は市が全額負担してタブレット端末を貸与していますし、近畿大学付属高校は新入生にiPadの購入を義務付けているため、反転授業を実践できているのです。

ネットワークやデバイスの確保に加えて、インターネット利用に対する保護者の合意を得る必要もあります。教員個人の裁量で確保するのは難しい現状ですから、反転授業は視聴環境がすでに整っている高等教育機関で先行して広がっていくと思います。

なお、反転授業について講演するとたいてい「本当に予習してくるのでしょうか?」という質問を受けます。授業に対するレディネスの習慣化は、反転授業を導入する目的の1つです。「本当に予習してくる」ようになるまで試行錯誤する展望がなければ、導入すべきでないとお答えしています。

(*1)ピアラーニング:学習者同士が対話を通じて教え合い、学び合う学習活動
(*2)レディネス:ある学習に対する準備が整っている状態
(*3):形成的評価:学習指導の途中の段階で、学習者が指導内容をどの程度理解しているか判断する行為
(*4)ルーブリック:学習過程のパフォーマンスを具体的に定義し、その到達段階を示す評価指標
(*5)チームティーチング:複数の教員が協力して授業を行う指導方法

株式会社ハンテンシャ
代表取締役 加藤 大

1972年生まれ。千葉県我孫子市出身
シニアマーケット、Webマーケティング、eラーニングのコンサルタントを経て、2014年6月から現職。
同年9月19日、日本教育工学会 第30回全国大会 口頭発表
反転授業によるアカデミックスキルの初年次教育
同年10月4日、人材育成マネジメント研究会 基盤教育研究分科会
大学教育における反転授業の実践 -企業教育への適用を考える

関連URL

加藤大Facebook

先生のための初級ICT講座

□ Vol.3「知っておきたい 子どもたちのネットトラブル」

 Vol.2「ロイロノート・スクールって何?」

 Vol.1「教育現場でiPadが選ばれる5つの理由」

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