2017年8月8日
シンキングツール×ロイロノートで思考フル回転のユーザー会/関西大初中高等部とLoiLo
シンキングツール×ロイロノートで思考フル回転のユーザー会/関西大学初中高等部とLoiLo
散らばった思考を体系的にビジュアル化できる「シンキングツール」
大学入試制度改革にも見られるように、知識を「覚える」だけでは通用しなくなる社会に生きていく子どもたち。自らの頭で考える「思考力」が重視され、情報やアイデアを広く発散し、論理的に収束させる力が必須といわれる。しかし一方で、それを教える教員側が知識量重視・正解主義で育ってきた世代だ。現場では、思考力の重要性を理解しつつも、その指導法をめぐって悪戦苦闘が続いている。
そうした中で提唱されたのが「シンキングツール」だ。これは、人間のアイデアや発想を視覚的にまとめるためのツールで、囲みや罫線、矢印などを用いて分けられた領域に思考を書き込み、体系立てて可視化するもの。
授業の目当て(用途)に応じ、さまざまな形状をした複数のツールを使い分けて活用する。頭の中に雑然と散らばる知識や発想を俯瞰することができ、関西大学・黒上晴夫教授がその第一人者として知られる。
ロイロノート・スクールで実際にシンキングツールを体験
「ロイロノート・スクール(以下、ロイロノート)」は、資料となる文字、画像、動画、web検索などを「カード」として表示し、それらを連結させて学習できる授業支援アプリ。アクティブ・ラーニングの隆盛で主体的な学習が重視される中、生徒の思考力育成への効果や、直感的でシンプルな操作性、情報の配信・集約・相互共有などが瞬時に可能な即時性が好評で、多くの教育機関が導入している。
そんなロイロノートに新機能として搭載されるのが、シンキングツールだ。思考を体系立てることができるという点で、もともとロイロノートとシンキングツールとの親和性が高かったといえるが、黒上教授監修のもと本格的に導入を開始。7月29日に、思考力育成に高い実績を持つ関西大学小中高等部と共催でシンキングツールに特化したユーザー会を開催した。
会場となったのは、同校高槻ミューズキャンパス。『シンキングツール×ロイロノートユーザー会 ~思考スキルて何しはるん?みんなで考え共有や!~』と題し、実際にロイロノートを使ってシンキングツールを体験。
各種ワークショップなどを織り交ぜながら、「明日から使える」授業案構築まで持っていく試みだ。黒上教授の解説をはじめ、同校初中高等部において、ロイロノート×シンキングツールで授業実践中の教員らによる模擬授業などが行われることもあって高い関心を集め、全国から約150名もの教員・関係者らが集まる満員御礼の大盛況となった。
子どもたちも、大人も、「考える」ことが苦手?
ロイロノートを開発したLoiLoの杉山竜太郎取締役は冒頭の挨拶で「シンキングツールの活用法を、この場のみなさんと一緒に考え、深めてみたい」と述べ、参加者らにも自ら「思考する」ことを促した。
会場となった関西大学中等部・高等部の田尻悟郎校長も、こう警鐘を鳴らす。「近年、『頭を使う子』が減っていると感じる。与えられたことはできるが、自ら発想することが極めて苦手だ」「教育者側にも問題がある。
アクティブ・ラーニングをグループディスカッションや意見発表のような手法論としてのみ捉える傾向があるが、それは違う。脳が動いて(思考して)こそアクティブ・ラーニングではないか」。
また、そうした危機感をふまえて、同校では考え方そのものを学ぶ『考える科』が設置されている。担当の松村湖生教諭は「本校では、思考力育成という土台の上に各教科(基礎学力)があると考えている」と語り、そのために活用しているのが、シンキングツールだと述べた。
教員らも生徒となって、実際にシンキングツールを体験
この日のユーザー会は5部構成。セッション1は、実際にシンキングツールを体感する黒上教授のワークショップだ。最初に使われたのは「ベン図」と呼ばれるツール。ベン図とは、円の重なりを用いて、複数の考え(思考)の類似点や相違点、相関関係などを視覚化するもので、この日の題材は「紙の教科書とデジタル教科書、それぞれの利点」。こうした、複数の意見や思考が錯綜するテーマも、ベン図とロイロノートを使えば、共通点や差異などが分かりやすく視覚化される。
次に使われたのは「Y字チャート」。アルファベットのYに見立てて、直線で3つにエリア分けし、テーマごとに意見(思考)を分類することができる。今回は「授業改善」をテーマに、「担当している子ども」「変わる教育内容」「求められる指導法」の3点をY字チャートに当てはめ、それぞれの意見を書き出した。
また書き出した意見は、別のツールに転換して使用することもできる。例えばY字チャートで抽出した意見を、縦軸と横軸で十字に4つのエリアに分ける「座標軸」に転用し、「個人でやること・協働すること」「計画・ふりかえり」に分類するのだ。「こうした手法は、付箋などを用いてアナログでも実践可能だが、ツール転換した時点で、当初の思考や議論の過程が残らない。しかし、思考を「カード」として保存できるロイロノートならそれらも容易に可能だ」(黒上教授)と言うように、ICTならではのメリットにも言及した。
最後に使用したのは「ピラミッドチャート」。これは、ひとつの意見に対し、なぜそう言えるのかという理由、理由の根拠となるエビデンスなどをピラミッド型に構造化するもの。
これにより、自らの意見を論理的に構築することができる。「新大学入試制度における記述式問題の導入に関する賛否」のテーマで、参加者らは思い思いに自らの主張を構造化。グループでディスカッションなどを行った。
ワークショップ全体では、こうした思考や意見をロイロノートを使って集約したり、全体に共有したりといったセッションを行ったが、「これが思考力をさらに高める」「自分の意見が取り上げられ、反映されることに協働学習の意義がある」と黒上教授。
個人でアイデアを出し、共有し、他者とのアイデアと組み合わせ、更新し、それを表明するという一連の流れがロイロノート上で実践できるからだ。
脳に汗をかきながら、シンキングツール×ロイロで授業案作成
セッション2では、関西大学初中高等部のエキスパート教員ら8名が、様々なシンキングツールを使用した模擬授業を披露。テーマは「インフォグラフィック」「余命について」「ケータイのモラル」「生態系」など。
参加者らはそれぞれ興味のある授業を見学して再びグループに戻り、得た学びをジグソー法で共有。セッション3において、シンキングツールを使用した「学級目標作り」の授業案を作成した。さらにセッション4では、自らの担当教科の授業案を個人で作成、さらに教科別のグループに分かれて各自のアイデアについてディスカッションを実施するという、まさに「思考漬け」の1日である。
全体の振り返りとして設定されたセッション5では、教科別セッションを経てのグループ内共有ののち、ロイロノートの意見集約機能を用いた黒上教授と田尻校長への質疑応答や、フィードバックが行われた。
ふたりは「新学習指導要領でも、ものの見方や考え方を最重視している」「社会が求めるのは、自ら課題を発見し解決していく人材」「何を使うのかではなく何のためにやるのかを、指導者側も“思考”して欲しい」と語り、思考力の重要性を力強く説いた。
参加者らは、頭をフル回転させヘトヘトになりながらも、心地よい疲れと多くのインスパイアを手に帰路につく1日となったようだ。LoiLoの杉山浩二代表取締役も手応えを感じているようで「こういうイベントをもっともっと開催したい」と語る。
次回、ロイロノートを使用した協創ワークショップを10月28日、大阪大学豊中キャンパスで開催予定。
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