2019年12月27日
すららを「使いつくす」発想で意外な応用の連続/名古屋経済大学高蔵高等学校・中学校
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理念なきICT導入の危うさ
教育現場にICTを導入する際、「ツールありき」の考え方は失敗のもとだ言われる。「タブレットを入れました。さあ、どう使いましょう」という発想は、順番が違うという意味だ。
そもそも、タブレットの導入自体が重要なわけではない。タブレットにせよデジタル教材にせよ、ツールはあくまで「手段」だからだ。教育ICT化の波に押されてとりあえず……という理念なき導入では、活用しきれず宝の持ち腐れになってしまうのも無理はない。まず、解決したい問題や挑戦したい教育手法があって、その手段としてツールを導入すべきだというのは、至極まっとうな考えと言えるだろう。
しかし一方で、導入後の創意と工夫次第では、当初の目的になかった予想外の発展的活用を見せることもあるからおもしろい。その好事例が、名古屋経済大学高蔵高等学校・中学校(名古屋市)だ。
家庭学習と習熟度別学習、のしかかる負担
同校では、2017年度より『すらら』(すららネット)を導入した。すららは、現状の学力や状況に応じて異なる出題が可能なオンライン教材。生徒が学習した時間・内容などのログが一目瞭然で指導マネジメントもしやすく、補習や家庭学習などのフォローアップ系から、反転学習などの発展的活用まで幅広く応用可能だ。細やかな学習指導を実現できるとして、採用する学校や学習塾の数は右肩上がりだ。
先述した「導入する目的」という文脈に照らすなら、当時同校が抱えていた課題は「家庭学習の定着」「習熟度別の対応」。それにすららが最適だと判断したのだ。同校の柳井谷真吾教諭・柴田舟教諭はこう語る。
「すらら導入以前から、家庭学習充実への努力はしていました。自学ノートを用いて学習量を指示し、教員が毎日それをチェックするなどの取り組みです。しかしそこに発生する労力は膨大なもの。どのくらいの理解度か、どんなところにつまずいているかなど、細かい部分の確認まではどうしても手が回りませんでした。習熟度別学習においては、同じ課題を与えつつ、1クラスを2つのグループに分けて対応するのが精いっぱい。毎日プリントを作る負担も重くのしかかっていました」。
しかし、すららの特性を活かせば、作問はもちろん出題内容や範囲まですべて個別最適化して配信される。おかげで教員らの負担は一気に軽減、狙い通りの効果があった。
指導方法を統一し、生徒との接点を増やす
ここまでは、すららを利用している学校であればよくある事例だ。冒頭、ツールは創意工夫次第で予想外の用途や効果を見せると述べたが、今度はそのケースを見てみよう。
まず同校では、学年団ごとに指導方法が異なることも課題となっていた。同じ家庭学習の定着を図るための取り組みでも、上述のような自学ノートを使う学年もあれば、他の方法を用いる学年もあるなど、バラバラだった。それぞれに一定の意義も効果もあったが、学年や教員が変わるたびに学習方法や指示が変わったのでは、生徒も混乱する。統一された取り組みが必要だったが、すらら導入でついにそれが集約された。
加えて、担当学年以外の生徒との接点を増やす効果もあった。以前から、与えられた課題がこなせていない生徒は居残りとなるルールだったが、教材がすららに統一されたことで、居残りの監督教員を誰が担当しても問題がなくなる。担当学年を問わず当番制で回せるようになり、普段は接点が少なくなりがちな生徒とも、コミュニケーションを取るきっかけを生んだのだ。
たった1度のイベントが、連鎖的に次々と生み出す学びの場
「生徒負担の月額使用料がありますからね。それだけのお金を払う価値を生徒や保護者さんにも示さないといけませんし、フルに使いこなさないともったいないと思って」と、柳井谷教諭は笑うが、教諭らの「使いこなす」ことに対する熱量は止まらない。一例が、すららが開催するイベントとの連動だ。
開発元のすららネットでは、テレビ会議システムで離れた場所にいる参加者を結び、オンラインのディスカッションやワークショップのイベントを実施している。題材はAI、地方創生、環境問題などさまざまだが、同校ではそのままこれを学校の探究学習テーマにも流用した。
さらに、そのレポートを掘り下げて大学のプレゼンテーションイベントに参加したり、探究テーマに基づいた製作物(模型やオブジェなど)を創作したり、文化祭での発表テーマにしたり……これなら一つのテーマを、長い時間をかけて多様な視点から深掘りできる。まさにテーマを「味わい尽くす」学びの連鎖だ。
また、学習時間(量)を競うイベント「すららカップ」入賞者や、校内での学習時間上位者を表彰したり、学校通信でニュースリリースしたりなど、モチベーションを高める取り組みも次々に仕掛けている。フル活用する発想で、とにかく生徒をすららに慣れさせる環境づくりを意識したと言う。
その成果か、「すらら」という存在は導入わずか2年強にして生徒にすっかり定着。「すららを介して生徒同士が教え合うような行動も見られるようになりました」と柴田教諭。
こうした用途や成果は、提供元であるすららネットの担当者も想定しておらず、そのアイデア力や発展性に思わず唸ったと言う。
理念や目的ありきのツール導入が大切であることは事実だ。目的に応じて様々なツールを使い分けるのも良いだろう。しかし、ツールを「この目的(だけ)に使う」と決めつける必要はないのかもしれない。
「もっと何かできるのではないか」「他の使いみちもあるはずだ」と考え続けることも、意義ある活用ではないか。無限の可能性や応用を引き出すという発想は、私たちが教育ICTに見出した可能性そのものだったはずなのだから。
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